一番の苦痛

俺の一番の苦痛。
そんなの決まってるさ。

『感情』だよ、
噴怒、慈悲、怠惰、快楽…
全部邪魔になる。…殺す時の話さ。
何でか?
殺す時に情が生まれて、一瞬でも躊躇してみろ。
今度は自分がやられる番だぞ。
だから俺は躊躇しない。
もちろん、容赦もしない。

でも、そんな俺にだって例外はある。
その内の一人が、今目の前にいるコイツだ。
コイツに対して俺が抱いてる感情は、そうだな…

『愛しさ』ってやつかな。

一番嫌な感情だよな。
しかし、実際に抱いてしまっているのだから、性がないのだろう。

「……うっ…ぐぅ……」

どうやら目が覚めたらしい。
低い唸り声がして、先程までうつ伏せ状態だった体がこちらに向く。

「よぉ、欠陥製品。やっと起きたのかよ。」

いつもどうりの俺を演じながら、ゆっくりと近ずく。
−大丈夫だ。上手くやれる。

「んん、うーうー!」

拘束されている、手足。
ガムテープで塞がれてる、口。
なんて様なんだろう。普段だったら、誘っているように見えただろう。
だが、今はそんな風に見えなかった,
俺自身が違う目的でやったのだから、当たり前か。

目的。それは邪魔な感情を消すために、


愛しいコイツを殺すこと。


「…悪ぃ、欠陥。」

この俺が殺す前に謝るとは…
やっぱり、感情なんて持ったらいけない。
俺は『零崎一賊』。
躊躇して殺せないなんて、在っちゃいけないんだ。

「……ッ…」

躊躇するな、殺せ。
本能がナイフを構えさせて、一発でやれる急所を探し始める。

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ…
−殺せ。
「……ぜろ……ざ…きっ……」
「ッ!!」





……
ああ、やっぱり…俺には無理だよ。
お前を、殺せない。


俺は弱虫だ。
別に、それでもいい。
たぶん、現時点でコイツを失ったら、確実に狂って泣き喚くだろう。
それくらい、俺はコイツが好きで好きでたまらないのだ。

ゆっくりと頭を撫でてやる。
すやすやと寝息をたてて眠っているのを見ていると、少しだが、安心する。
−起きたら怒られそうだ。ま、声は出ないので殴られるかもしれないが。
声が出ないと思うのは、昨晩コイツが気絶するまで抱きたおしたから。
あんなに声をあげれば出なくならなくても、枯れるくらいはするだろ。
まぁ、抱かれた本人は覚えていないだろうけど。

「まったく、傑作だな。」



END